空の医療タクシー、ヘリコプター活用の提案

 平成13年5月28日  井上徹英@北九州
 近年、日本においてもヘリコプターの医療用利用の必要性が喚起されており、現場の医師の強い要請を受け、多くの自治体が救急患者のヘリ搬送に積極的に取り組むようになり、東海大学救命救急センターなどではドクターヘリ事業も試みられております。しかし、消防や防災ヘリの利用、ドクターヘリの活用には行政ならではの様々な制限があるため、煩雑な手続きを要することなく、受益者負担の原則にのっとり、もっと手軽にヘリが利用できないか、というのが、私達、実地医家の長年の思いでした。
 この度、パイロット養成校を主事業としているMASパイロットアカデミーの森憲吾社長から直接の提案を受け、私なりに咀嚼し、下記の形でのヘリの利用ができないかと模索しております。森憲吾社長はNHKの番組「情熱大陸」でヘリに情熱を燃やす青年と紹介されていますが、アメリカで医療用ヘリのパイロットを務めた経験から、日本においても医療面でヘリをもっと自由に利用すべきとの信念のもと、様々な模索をしておられます。
 実現には多くの困難が予測されますが、素案段階として、下記のようなものを考えてみました。御多忙とは思いますが、御一読の上、御意見を賜ることができれば幸いです。(御意見はこちらへお願い致します。)
 尚、本件は、私が所属している組織に正式に検討課題としてあげている訳ではなく、当然にして事業的位置づけがなされている訳ではありません。まずは個人として諸方面に打診を図っていく考えでいます。
 御意見をお伺いした上で、更に検討を重ね、実際に需要があり、十分に実現の可能性があると見込まれた場合には、説明会、デモンストレーションを開催した上で最終案を取り纏め、御検討頂ける施設に正式にお願い申し上げる所存です。
                                                    敬具
                  記
  1. 事業の目的
    • 患者搬送時間の短縮
    • 病病、病診連携の強化
    • 医療スタッフや関係者の移動時間の短縮(中距離出張に利用可)
    • 遠隔地医療への支援
    • 災害時の救助活動
    • その他(職員への利便供与)
  2. 運航責任
  3. 使用ヘリコプター
    • R-44(アメリカ製、ガソリンエンジンの単発機)
    • 通常仕様では4人乗り
    • 医療仕様に改修し、ストレッチャー患者一人、医療スタッフ一人が搭乗可能
    Q&A  (文責:井上徹英)

Q:消防など、自治体のヘリもあるし、今後はドクターヘリも導入されていくのに、どうして民間ヘリの導入が必要なのですか?
A:行政のヘリは、緊急事態や、患者が重症で高次病院への移送が必要であること、などの理由が明確な場合は利用できますが、そうでない場合は利用することはできません。必要性についての判断は、医療機関→地元消防→ヘリを保有する市または県、といった順序で依頼しなければならず、ヘリを保有する自治体を越えての運航は手続きが煩雑で、依頼者側は決定について受け身にならざるを得ません。また、防災任務との兼用なので、発進まで時間がかかることがあります。ドクターヘリは医療用に装備されていますが、その目的は医師の現場派遣や緊急移送で、国と県からの補助事業であるため、利用には厳しい制約がつきます。いわば大義名分のある時は消防ヘリやドクターヘリを使えばいいし、例えば比較的安定している患者さんを地元の地域に搬送する、あるいは患者さんの希望による転院など、行政ヘリの利用として大義名分がつきにくい場合は民間ヘリを利用すればいいわけです。ヘリ利用の自由度は補助金を受けないほうがはるかに高く維持できます。実際は、ヘリを使えば便利だし患者さんも楽だが、行政のヘリには依頼しにくい、という場合が多いのです。行政のヘリが利用できる場合は利用すればいいし、利用しにくい場合は民間ヘリを利用することによってヘリの活用を図っていくべきだと考えています。また、民間ですと利用の自由度が高いため、例えば院長の中距離出張に利用することができます。なお、ドクターヘリは国家予算によって左右されます。もし補助がなくなればツィンエンジンの中型ジェットヘリを純粋に民間で保有して維持することは金額面から極めて困難です。ちなみに、スイスの航空救助隊は、行政機関からの制約を嫌って、政府からの補助金は一切受けていません。九州とほぼ同じ大きさの国土に13の基地と15機のヘリを保有して救急救助活動を行っています。会員制をとっており、場合によっては家畜の運搬も担っています。補助金を受けていない分、自由度が高いため、保険会社などからの委託を受けて有料の活動も行っています。ただし、営利は目的としていません。

Q:ヘリはコストが高いと聞いていますが?
A:ヘリが十全に利用できない理由がそのコストです。全国の消防や防災ヘリはツィンのジェットタービンのヘリですが、一機数億円し、年間維持費が数千万円要するこのようなヘリを民間ベースで使えば、機体償却費や維持費用が全て含まれるため、一時間あたりのコストは約70万円になります。小型のジェットヘリでも一時間あたり約40万円です。料金の規制緩和がなされましたので、利用が多くなればコストはもっと下げることはできますが、このような金額で利用を多くするというのは事実上不可能です。

Q:本事業ではコストはどうなるのでしょうか?
A:R-44は医療仕様への改修を含めて、機体購入費は約5500万円です。年間維持費は約500万円です。ガソリンエンジンの小型ヘリですが、コストは10分の1で済みます。ひとつの目安として、患者負担であれ病院負担であれ、一回のフライトあたり5万円以下というのが現実に多く利用するための費用面での条件と考えていますが、R-44であればこれが可能になります。20の医療機関が機体購入費として各300万円負担し、次年度から年間各20万円を負担すれば、その医療機関が実際に利用した場合の時間あたりの利用費用は約2万円で、パイロットの給与も含め、全ての費用が賄えます。

Q:搬送を事業とすれば、事業許可が必要なのでは?
A:その通りです。不特定多数に対して有料の搬送業務を行えば事業許可が必要です。本事業の場合は、ヘリを共同保有し、保有者の利便に用いる、という原則で行われますので、一般的に言う搬送事業には該当しません。ただし、日本にはさまざまな規制があり、事業の推進が決まり、内容の詳細が決定すれば、万が一にも違法性のないよう専門家のアドバイスを仰ぐ予定です。

Q:単発ガソリンエンジンの小型ヘリでは安全性に問題があるのではないでしょうか?
A:どんなに精密なものでも空を飛ぶ限り100%の安全はありません。それは空だけのことではありません。日本において交通事故の死亡者は年間約1万人います。自動車は本来危険なものであるはずです。しかし、自動車が危険だからといって利用しないのでしょうか。そうではありません。利便性は万人が認めるところで、だからこそ事業にも用いられ、多くの家庭は自家用車を持ち安全に配慮しながら利用しているのです。ヘリも同様です。そしてその事故率は自動車と比べてもはるかに低いものです。ツィンエンジンのジェットヘリが単発のガソリンエンジンのヘリより安全かというと、必ずしもそうとは言えません。ヘリの事故のうちエンジンが原因であるものはほとんどないのです。また、メカニズムが複雑になるほどトラブルは起こりやすくなります。機体が大きくなるほどシステムは複雑になるのです。また、ローターとのミッションに故障が起こればエンジンが二つあったとしても安全性での意味はありません。なお、ヘリはエンジンが停止しても落下速度を利用してローターを回転させ、近くの空き地に軟着陸できるシステムがあり、パイロットは必ずその訓練を受けています。

Q:パイロットの技術は信頼できるのでしょうか?
A:本事業においては、飛行時間7000時間を越え、MASパイロットアカデミーの主催者である森憲吾氏がその資質を認め、そして正式にライセンスを取得し、なおかつ、インストラクターの資格を保有しているパイロットが任務にあたることになるでしょう。

Q:万一の事故の際の補償はどうなるのでしょうか?
A:年間維持費の過半が保険料です。十分かどうかは意見それぞれあると思いますが、ヘリ関連での標準的な保険には運航会社の責任において加入します。運航責任はあくまで運航会社にあり、ヘリの保有者が法的責任を負うことはありません。事業の継続性のためには運航会社はビジネスベースでやれることが必要ですが、共同保有者は営利目的としません。

Q:着陸場所の確保はできるのでしょうか?遠いところだと意義が薄れます。
A:MAS西日本フライトクラブはアマチュアパイロットの操縦、会員たる小事業者の利便のために創設された機関ですが、そこが九州では既に20ヶ所を超える着陸場所を確保しています。本事業ではMAS西日本フライトクラブと提携して行うことになっていますので、市街地への着陸は無理としても、あまり離れていない場所への着陸を西日本フライトクラブがアレンジします。空港などの利用についても全てMAS西日本フライトクラブがアレンジします。

Q:機体はどこに常駐するのでしょうか?
A:機体の常駐場所には格納庫が必要です。北九州空港には空いた格納庫があり、比較的安く利用できますので、まずはそこを考えていますが、他に適当な場所が見つかれば柔軟に対応する予定です。

Q:ヘリの利用範囲はどのくらいが考えられるのでしょうか?
A:R-44ですと、時速230キロです。無給油での飛行は十分な余裕をとったとして1時間半がひとつの目安です。積載重量にもよりますが、往復飛行ですと、片道45分で考えれば、半径200キロが行動範囲になります。給油を前提にすれば半径300キロでも問題ありません。したがって、北九州を中心とすれば、福岡、長崎、熊本、大分、山口、広島を行動範囲とすることができます。単発エンジンの場合は洋上飛行に制限がありますが、救命胴衣やフロートを装備することで洋上飛行も可能です。予定行動であれば四国も行動範囲に入れることができます。

Q:将来ともこのような形で進めていくのでしょうか?
A:この点については何とも言えません。まずはR-44で行い、必要があれば将来的には複数機とする、あるいは本格的医療装備をした中型ヘリの導入も行えるかも知れません。しかしながら、まずは実現可能な範囲を視野において、ヘリを身近なものとしていきたいと考えています
参考(安藤@荒川医院)