●全国保険医新聞第2481号(10/7/15)から
- 消費税増税は何のためか
- 税収に占める消費税は欧州並み
- 日本の消費税はヨーロッパに比べて低いと言われているが、国の税収(一般会計)に占める割合は、消費税収は1989年の導入時は7%であったが、08年度には28%に増加。法人税は1989年の44%から、08年度には30%に低下している。税収に占める消費税収の割合は既にヨーロッパ並みになっている。
- 社会保障抑制の国民番号制導入
- 「逆進性」や「不公平性」の高い消費税だが、管首相は、「逆進性」を緩和する為、所得の低い人には増税分を全額還付すると発言。その為、国民1人1人に番号を割り振る共通番号制度を導入するとしている。政府は、医療、社会保障の抑制管理に活用する事も狙っており、来年の通常国会に国民番号制導入の関連法案を提出する予定だ。
- 法人税率を大きく下回る実際の税負担
- 日本の法人税の実効税率は約40%だが、実際の税負担との間には大きな開きがある。毎日新聞は7月3日付けの記事で、「研究開発費の一部を控除する『試験研究費税額控除』や、企業が他国に支払った税額を控除する『外国税額控除』などの減免制度がある為だ」と指摘。「税理士の管隆徳氏が07年3月期の税率を調べた処、実際の税率はトヨタ30.5%、ホンダ32.1%、三菱商事20.1%、三井物産11.4%だった」事を紹介し、「法人減税の大合唱、応分負担視点欠ける」と報じている。
- 法人減税でも経済成長に廻らず
- 米倉日本経団連会長は消費税増税を巡って、「15%程度までの引き上げは必要になる。毎年1%か2%ずつ段階的に上げる」と注文を付ける一方、法人税率の引き下げを、「不可欠だ。外資にもどんどん投資して貰いたい」と述べ、法人減税と消費税増税を強く求めている。
- 管精研は「新成長戦略」で、法人税の実効税率の引き下げを表明したが、法人税の実効税率を5%幅で引き下げた場合でも、「経済成長の効果は限定的」と指摘されている。
- これまで実施されて来た大幅な法人税減税の結果は、その大半が企業の内部留保と株主の配当に廻るばかりで、設備投資には繋がっていない。
- 1997年の消費税5%増税で、景気が急速に悪化し、07年までの10年間で、日本の国内総生産(GDP)伸び率は0.4%と、主要先進国が数十%なのに比べて最低となっている。
- 日本金融財政研究所所長の菊池氏は、衆議院予算委員会の中央公聴会で、消費税増税を行っても、それを財源に社会保障を充実すれば経済は活性化するという議論について、「消費税を引き上げるそのマイナス効果がずっと先に出る」と述べ、その後、社会保障による経済効果が出て来るが、消費税増税の悪影響で、「経済的にはマイナス効果が大きい」と指摘。経済政策としても消費税増税は愚策だと訴えている。
- 法人税減税しなければ企業は海外逃避するのか
- 「法人税減税で競争力強化」は自明では無い
- 法人税減税による国際競争力の強化は必ずしも自明とは言えない。「税制」に限定しても、企業は法人税以外にも社会保険料(税)の事業主負担、付加価値税、国際課税、租税特別措置などを総合的に課されているからだ。法人税のみを国際評価する事に殆ど意味は無い。
- また政府税制調査会の専門家委員会が6月22日に出した「議論の中間的な整理」でも、「経済のグローバル化との関係」で、雇用確保・対内投資等を促進する観点から税制を論議すべきとの意見に対して、「企業の投資判断には様々な要因が影響しており、税負担と国際競争力を安易に結び付けて議論すべきでない」との意見もあったと両論併記されている。
- 投資決定上の「税制」評価は低い
- また経産省が主張するような、法人税負担が高い為に、企業は海外進出するという議論も、現実の企業行動とは一致しない。
- 経産省の「第39回海外事業活動基本調査結果概要確報」(08年度実績)によれば、資本金10億円超の大企業の投資決定のポイントは、「現地の製品需要、またはその見込み」(70.8%)、「良質で安価な労働力」(26.5%)、「他の日系企業の進出実績」(25.7%)が上位を占め、「税制、融資等の優遇措置」(8.0%)は11項目中で7位に過ぎない。
- この傾向は07年9月の同省による「公的負担と企業行動に関するアンケート調査結果中間報告」においてもほぼ同様だ。
- 法人課税の水準を重視して、企業は海外進出を選択してはいない。大手自動車メーカーが日本と同水準の法人実効税率のアメリカ(40.75%)に進出している事を見ても明らかだ。
- 狙いは、株主配当などの引き上げ
- 寧ろ、法人税減税の狙いは株主配当と内部留保の引き上げと思われる。01年から08年にかけて、従業員1人当たりの給与は1割落ち込む一方で、役員給与・賞与は7.1%上昇、配当金に至っては2.7倍になっている。
- 他方、競争力の強化に関連する設備投資(有形固定資産)は1割低下しているが、内部留保は1.4〜1.6倍へと増加している。大企業は、賃金低下によって上げた利益を巨額の内部留保として貯め込みつつ、また役員給与と株主配当を増加させて来た。
- この背景には、株主構成比率に置いて外国の機関投資家が多くなる中、経営者に対する配当金の引き上げ圧力が高まっている事がある。配当原資と内部留保が税引き後利益から構成されることを考慮すると、経団連が法人税減税に固執するのは、国際競争力の強化よりも、寧ろ配当金と内部留保の引き上げをしたいというのが本音ではないだろうか。
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