「混合診療解禁でおこる患者の悲劇」
ほか、ボストン在住の李啓充ドクターによる新聞連載です

この「見過ごせない日本の医療改革 規制改革・民間開放推進会議の嘘」連載3日分を、
筆者と媒体(「日刊ゲンダイ」 http://gendai.net/)の許可を得て転送します

MLへの転送、HPへの転載、引用、保存、大歓迎!  信州にて いろひら

「見過ごせない日本の医療改革 規制改革・民間開放推進会議の嘘」
                    李啓充 04年12月14〜16日「日刊ゲンダイ」
  1. 「混合診療解禁でおこる患者の悲劇」

    200X年のある日、あなたは大腸がんと診断される。

    すでに転移が進んでいるので、手術には手遅れだが、延命効果が期待できる
    新薬があると、医者は言う。

    「でも、この薬には保険がきかないので、薬代がひと月に150万円かかります。

    混合診療が禁止されていた時代には未承認の薬を使おうとしたらすべての医療費を
    自己負担しなければならなかったのですが、04年末に、規制改革・民間開放
    推進会議と小泉首相が頑張ったおかげで、今は、薬代だけ自己負担すれば
    よくなったんです」と医者は説明する。

    ひと月でもふた月でも長く生きたいと、あなたと家族は毎月150万円の薬代を工面する。

    幸い治療は奏功、腫瘍の増大は止まった。

    しかし、一年近く、無理をして毎月150万円の負担を続けてきたが、
    ついにお金がつきる日がやってきた。

    「お気の毒ですが、お金が払えないのなら、もうこの薬を続けることはできません。

    アメリカだったら保険がきく薬なのですが・・・」と、医者は済まなそうに言う。

    「命にかかわる薬なのに保険がきかないなんて、今まで何のために何十年も
    保険料を払ってきたのだ」とあなたはほぞを噛む。

    「命の沙汰も金次第」という言葉が胸にぐさりと突き刺さる・・・。

    以上、混合診療解禁後の近未来を想像したが、「ひと月150万円の抗癌剤」
    は決して誇張ではない。

    今年はじめ、米国で大腸がん治療薬として認可された新薬の実際の値段である。

    しかし、米国ではこの薬に保険がきくので、患者は、保険にさえ入っていれば
    薬代について心配する必要はない。

    混合診療解禁派は、混合診療が解禁されれば、日本で未承認の最新の抗癌剤が
    自由に使えるようになると宣伝するが、実は、自由に使うことができるのは財力がある
    人に限られるのであって、決してすべての人が自由に使えるようになるわけではない。

    患者が新薬の薬代の心配などしなくともいいよう、保険診療の一層の充実を可能と
    する制度を目ざすことこそが改革のめざすべき方向であるはずなのに、混合診療
    解禁派は、日本の医療を保険がなかった時代に逆戻りさせようとしているのである。
       
  2. 「混合診療解禁でおこる保険診療の空洞化」

    前回に続き、混合診療解禁後の近未来を予測する。

    201X年のある日、あなたは、主治医から、脳血栓のリスクを劇的に減らす新薬を
    勧められる。

    血圧とコレステロールが高いのは親譲り。

    両親とも脳血栓で倒れ、介護が必要な身となっている。

    あなたにとって願ってもない薬だ。

    「でも、保険は使えないので、ひと月の薬代に30万円かかりますよ」

    こともなげに主治医は言う。

    05年に混合診療が全面解禁となった後、新薬に保険が使えないのは当たり前に
    なっていたので、あなたは格別驚きもしない。

    ただ、自分の収入ではとても手が出ないと思うと、出るのは溜息ばかりだ。

    昔は、保険適用が認められない薬は市場に出せなかったので、製薬会社は新薬の
    承認を得るために、コストや手間をいとわず臨床試験に励んだものだ。

    しかし、混合診療が全面解禁になった後は、自由診療で使う薬として「言い値」で
    売った方が得だから、製薬会社は保険適用を求める努力などしなくなってしまったのだ。

    その結果、「新薬はよく効くが価格が高く、保険も使えない」ことになり、
    保険が使える薬は「効き目が劣る」古い薬ばかりになってしまった。

    薬だけではない。

    心筋梗塞の治療にしても、保険が使える治療と使えない治療では、
    5年後の死亡率が5倍以上違うという。

    会社の役員たちは自由診療分をカバーする民間の付加保険に入っているので、
    どんな最新の治療も自己負担なしに受けられる。

    金持ちに手厚い米国の競争社会をまねて、重役の民間保険料は会社持ちだ。

    しかし、中間管理職のあなたは違う。

    混合診療が解禁される前、日本の医療保険制度は世界一とWHOもお墨付きを
    与えていた。

    ところが、公的保険で受けられる診療は時代遅れのものばかり。

    こういう時代になるのは間違いない。
      
  3. 「株式会社病院の恐ろしさ」

    株式会社が大々的に病院チェーンを展開しているのは世界中でアメリカだけだ。

    株式会社が病院経営をしたらどうなるのかは、米国の例を見ればよい。

    アメリカ最大の病院チェーン、HCA社は、保有病院190、年商2兆2000億円、
    粗利益1310億円(03年度)という超巨大企業である。

    巨大チェーン構築の立役者、リチャード・スコット(前CEO)は、最初に所有した2病院の
    経営を立て直すために、競争相手の病院も買収、そこを閉鎖したことで知られる。

    HCA社はこうした強引な手法で全米にチェーンを拡大した。

    競争相手を買収してまで潰すのは、そうすれば市場を寡占でき、
    「言い値」で商売ができるからだ。

    全米第2の病院チェーン、テネット社(年商1兆3000億円)の場合、入院患者1人当たり
    への請求額は他の病院より63%も高いことがカリフォルニア州の調査で明らかになった。

    株式会社病院の問題はまだある。

    デューク大学フランク・スローン教授によると、1984年から95年の間に非営利から
    株式会社に経営が変わった133病院を調査したところ、株式会社に変わった後の
    1ー2年で入院患者の死亡率が2倍近くに増えたという。

    利益を優先するあまり、病院チェーンが違法行為に手を染めることも珍しくない。

    最近では、02年に、健康な患者多数に心臓手術を施行した疑いでテネット社の
    病院がFBIの取り調べを受けた。

    02年、HCA社は組織ぐるみの診療報酬不正請求を認め、罰金1000億円に加え、

    不正請求返還分7500億円を米政府に支払うことで示談した。

    日本の医療の規制緩和が進めば、混合診療解禁の次は病院の株式会社化が
    現実になろう。

    在日米国商工会は「株式会社の病院経営参入早期実現」を日本政府に申し入れている。

    アメリカの巨大病院チェーンが、巨額の資本力で日本の医療市場を制圧する日が
    近づいている。



健康な人の心臓をオペして、不正請求? 以上は、怖ゎーい、近未来のSF話、ホラ話・・・?

「いのちが惜しくば、金を出せ」 「家族を助けたいなら、金を出せ」

げっー、金持ちしか救われんぞ・・・こりゃ、医療じゃない! 強盗?誘拐?拉致「換金」?

だとすると、政府説明は、おためごかしもいいところだ 怒りの気持ちが湧いてきた   

本なら「患者見殺し 医療改革のペテン 年金崩壊の次は医療崩壊」(光文社、1000円)が、
ビデオならハリウッド映画「ジョンQ−最後の決断」(2002年)がお薦め 
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334933408/249-3592879-1971505
http://www.yomiuri.co.jp/hochi/geinou/01movie/2002/10/johnq/main.htm

14日と15日の報道によれば、「2004年は」一応の決着のようだ・・・
だが、05年は?06年は? 私は、以下の報道中に(!)で示した8ヶ所が気になってならない

政府は・・・今年度の議論では(!)全面解禁を見送る方針を固めた。・・・
尾辻厚労相は、13日の折衝で、具体案を示した上で
来年度以降の継続協議も認めた(!)ため、行革相もその方針を了承した。 
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20041215i101.htm より(読売)

「・・・来年度、再来年度に(!)私どもの方向性に動くかが一つのカギ」。
宮内議長は14日の記者会見でこう語り、包括的解禁を来年度以降の「宿題」(!)
として先送りする考えをにじませた。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/medical/news/20041215k0000m010093000c.html より(毎日)

名を捨て実をとった規制改革推進会議・・・規制改革会議などの狙いの一つは、次々生まれる
医療技術を混合診療の対象として固定し、その後も保険適用しない(!)ことにある。

そうすれば公的医療費(保険料と税)の伸びを抑制でき、その分民間保険市場が広がるチャンス(!)となる。
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20041216k0000m010099000c.html より(毎日) 

・・・現在、例外的に認めている制度を拡充した上で新しい制度を作ることで合意、
小泉総理も了承しました。・・・「無条件で解禁したら混乱(!)が生じますよ。
全政党が反対した混合診療(!)をやったんですよ。いかに画期的なことか」(小泉首相)・・・
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye1094105.html より(TBS、首相の本音、リンク切れ残念)

信州にて いろひら拝


追伸 : 在日米国大使館HP上に、「ジェームス・P・ズムワルト経済担当公使の意見表明」と
「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」がある
意見、要望とはいいながら、内政干渉的であり、まるで「属国」化要求のように読める

http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041122-50.html
http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041020-50.html

再追伸 : 規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦氏については、12月10日発売の
「文藝春秋」2005年1月号に、”オリックス総帥 「新政商」宮内義彦 三つの顔”として、
10ページにわたり掲載され、その「我田引水」の実態が明らかになってきた

「・・・オリックス生命という保険会社がある、医療保険分野にも進出しています。・・・
小泉政権下では、従来の族議員に対する陳情が廃れ、審議会というパイプを通じた
企業サイドの要望が実現していった。その要望件数が際立って多いのがオリックスである。
・・・オリックスは徐々にハゲタカ化しているのではないでしょうか」
http://www.bunshun.co.jp/mag/bungeishunju/


蛇足 : 「サンデー毎日」(12月19日号)の記事によれば、推進会議が
「完全解禁を望んでいる」として追い風に利用しかけていた「がん患者団体」が、
「我々は、あくまで臨時措置として混合診療を要望しているのであり、最終的には、
有効性が立証された抗がん剤を公的保険に組み込むことを望む」と言い切っている。

「癌と共に生きる会」の事務局長は、こう語っている。

「完全解禁は望みません。
医療に貧富の差がついたり、安全でない薬が使われるのは違うと思うからです。
国民皆保険という素晴らしい制度で、世界標準のがん治療を受けることが私たちの
最終目的
なんで
す」

「日本がん患者団体協議会」の事務局長も同意見だ。

「僕たちは、混合診療に全面的賛成でも反対でもない。
今のままでは死ぬだけの患者がいるのに、厚労省が何もしてくれない以上は、1年に限って緊急に
混合診療を解禁し、その間に、僕たちも入れた関係者で、抗がん剤に限らず、未承認薬の特定
療養費や公的保険への迅速な適用を徹底して話し合う現実的対処を要望しているだけなんです」

切実な苦悩を抱えておられる患者の方々から、このような意思が明らかにされたこと
に経済界主導の全面解禁を求める側は、どう応えるつもりだろうか。

市場原理至上主義派の「魂胆」が、当の患者さんたちに見透かされている。
本来なら、ここで勝負あり。
潔く、引き下がっていただきたい。

インドのマハートマ・ガンディが、大英帝国の圧政下、インド独立を目指して非暴力抵抗運動を
展開しながら、イギリスに代表される西欧のあり方に対して「反骨」的に掲げた「七つの大罪」を
記しておこう。

「原則なき政治」
「道徳なき商業」
「労働なき富」
「人格なき教育」
「人間性なき科学」
「良心なき快楽」
「犠牲なき信仰」

新自由主義による経済のグローバル化が野放図に進められるなか、
この七つの灯火は、私たちの進むべき道を照らしてくれるのではないだろうか。

皆様一人ひとりにとって、よりよき2005年を!  2004年12月17日 信州にて いろひら