消費税の社会保障目的税化のまちがい  立正大学法学部教授・税理士 浦野広明
  • 応能原則に違反する消費税
    • 日本経済団体連合会(経団運)は、「社会保障制度を再構築し、活力ある経済社会を実現するためには、消費税の引き上げを含む税・財政・社会保障制度の一体改革の断行が不可欠である」と述べている(緊急提言、2008年7月30日)。つまり「消費税の社会保障目的税化」である。
    • 消費税は憲法の応能負担原則(応能原則)に違反する税金である。理由は簡単。月に5万円の所得者と100万円の所得者が、1万円の買い物をして500円の消費税を負担した場台で考えてみよう。支払った500円を分子に所得を分母にして負担割台を計算すると、前者は1%、後者は0・05%となる。つまり低所得者に高い負担を強いる差別と不平等の税である。憲法第14条(法の下の平等)が求める社会は「人間みな平等」の社会であり、合理的根拠のない一切の差別と不平等を許さない。
    • 消費税は税の支払い方である応能原則に反する。それに加え消費税の社会保障目的税化は憲法の税の使い方に関する考えに反する。
         
  • 租税はすべて社会保障目的
    • 憲法上は租税のすべてが「福祉社会保障目的税」となる。その根拠は憲法の次の規定である。
    • 憲法前文は「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」と平和的生存権をうたっている。
    • 憲法第9条は、「@日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。A前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を宣言している。
    • 憲法第25条第2項は、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と杜会福祉、社会保障、公衆衛生を総括して一般にいう「社会保障」について国の義務としている。この条項は同条の1項の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に対応するものであり社会保障の権利(社会保障権)を明らかにしている。
    • また前文は「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と述べる。
    • このように憲法は平和と福祉を重視しており、支払った税金を福祉、社会保障など生存の確保に充当することを前提にしている。つまり、租税のすべてが「福祉社会保障目的税」なのである。
        
  • 大企業の利益確保が目的  (⇒ 輸出企業に消費税が還付されるしくみ
    • 経団連が消費税増税に執着するのは社会保障とはまったく関係ない。日本を代表する自動車、電子産業などの輸出製造業の莫大な利益確保が目的なのである。
    • 輸出製造業は消費税によって巨額の輸出戻し税を得ている。例えば現在、トヨタ自動車は消費税・地方消費税を1円も払わないで、下表のように年問約3000億円近い還付を受けている。増税すれば輸出製造業の還付金はどんどん増える。
    • その一方で、消費税は国民に広く負担を求めるから、税率が上がれば上がるほど低所得者の税負担割台は高くなる。
         
    • 表:トヨタ自動車の消費税・地方消費税概算計算(2006年度分)
      1.課税売上高の計算
       @総売上高 11兆5718億円
       Aうち輸出売上高 7兆9845億円
       B差引課税国内売上高 3兆5873億円
      2.課税仕入額 9兆3240億円
      3.消費税額の計算
       C輸出販売に対する消費税額 0円 =A7兆9845億円×0%
       D国内課税売上高に対する税額 1793億円 =B3兆5873億円×5%
       E仕入税額控除額 4662億円 ="2"9兆3240億円×5%
       F差し引き還付税額 2869億円 =D−E
(全国保険医新聞 第2421号より)