「底支えするもの」
  荒川医院 安藤潔
日本臨床内科医会会誌 ITコーナー 原稿

●変革の世紀:
 平成14年5月に放映された「変革の世紀;情報革命が組織を変える」では、「崩れ行くピラミッド組織」との副題で、“逆ピラミッド型”への転換を目指す様々な事例が紹介されました。即ち、1)司令官の役割は現場を助ける活きた情報提供をどれだけ出来るか、に変わりつつあり、2)兵士は刻一刻端末に送られてくる戦場全体の状況を見て自ら判断して行動する、というものです。プロフェッショナル・フリーダム(現在はプロフェッショナル・オートノミー)を尊ぶ実地医家により構成される組織が医師会や医会であるならば、逆ピラミッド型”こそが本来のあるべき姿とも言えます。
 インターネットの登場によりもたらされた情報革命とは、を知るには、英語で医学・医療情報を検索するのが一番です。まさに、自院に「医ながらにして」医学部の図書館で調べものをするが如し(1)、であり、情報革命のなんたるかを実感します。会員個々の日常診療では個人情報保護法施行下でのカルテ開示やセカンド・オピニオン、その親睦団体的存在の医師会や医会では組織の根幹を問う公益法人制度改革、というように、私たちが今、変革の世紀に居合わせていることを示す材料にはこと欠かないのですが、そうした社会の変化に対応しきれず、トラブルに繋がる事例も見聞されます。

●変革への対応:
 黒船来航で明治維新、近代国家へと脱皮した我が国ですが、硬直化した幕府に頼らず自己改革に着手できたか、これが維新後の明暗を分けたともされています。医業経営厳しい昨今、身の丈に合った組織の情報革命を自ら行う為には、従来の手書き・手計算に換えてワードやエクセルなどのパソコン・ソフトを導入するのは勿論、更に当コーナーでご紹介した「もうひとつのツール」、ホームページ(HP)やメーリングリスト(ML)などの簡便なツールをいかに組織として活用するか(2)、工夫してみるのも良いかと思います。
 実際、インターネットで検索してみれば、今やHPを持たない組織のほうが少数派、とも言えます。しかし、そのHPも体裁に拘るあまり活きた情報に乏しく、デジタルデバイドを理由にMLは時期尚早と退けられ、活きた情報の収集は従来のツールに頼らざるを得ない、という組織は少なからず、が現状のようです。これでは現場は昨今の朝令暮改に対応するのが精一杯で、折角の優秀な頭脳を医療の質向上などに活かす、という余裕は生まれません。こうした危機的現状を打破する為には何事もまず”隗より始めよ”、トップの姿勢が問われることは言うまでもありません。組織を底支えする事務局のIT化が遅々として進まず、日常診療に多忙な会員有志が歯噛みする、では、いつまで経っても情報革命に対応し得る組織には脱皮し得ません。
 従来の会員管理や会計処理の電算化に加えて、様々な文書の電子化、サーバへの整理保存は勿論、HPやMLの管理運営とその活用など、いわゆる”聖域無き構造改革”が進む中、事務局が担うべき業務は膨大且つ重要であり、セキュリティに通じたプロのサポートも欠かせません。筆者らの地区医師会でも、まず事務局のIT化に着手しています。上記の業務を事務局が分担・連携してこなすことにより、役員・委員は診療の合間に医師会に届くほぼ全て文書を閲覧でき、役員MLや各部MLなどを通じて適時意見交換を行い、オフミ(off line meeting)では更に踏み込んだ効率的な協議が可能となりつつあります。こうした執行部の活動は直ちに会員用HPに整理して掲載され、殊に重要な活きた情報はMLを通じて会員へ即配され、会員からも現場からの情報が提供されるようになりました。また、事務局のIT化により、会員名簿や区医雑誌など製本用の原稿も全てHPとML上で共有できる為、訂正作業も格段と容易になり、製本屋にはHP最終版のURLを通知すれば済むなど、事務局の負担も減りました。
 こうして結果だけを書けば簡単なことですが、実際には紆余曲折、試行錯誤の繰り返しであり、役員・委員と事務局が共に実際に即した工夫を積み重ねることにより画餅を避け、徐々に業務は効率化され、且つ組織としての一体感も育まれつつあると実感しています。
 一方、インターネットの世界では外部からのハッキングは勿論、フィッシングやファーミングなど素人が陥りやすい様々な落とし穴が存在します。それらを上手に回避しながらインターネットを活用するには、医師会や医会の置かれた状況を良く理解したプロによる適切なアドバイスを随時、得られる体制作りも欠かせません。

●医師の組織とインターネット:
 組織のIT化より会員は必要な時に必要な資料を容易に検索、閲覧できる為、保管場所を要する印刷物の送付は不要との声も徐々に増えてきました。その一方、MLへ参加しただけで患者データが流出する、などの偏見にも根強いものがあり、昨今のウィルス・メール、迷惑メール等の急増がこれらに拍車を掛けています。
 しかし、医学の歴史は未知の病気との戦いの歴史、多くの先人が果敢に病魔に挑み、敵を知り己を知ることから活路を見出してきたのです。3年前、SARSウィルスは飛行機により各国へ拡散しましたが、人類はインターネットにより更なるその拡散を阻止しました。科学の進歩は日進月歩、伝えるべき情報は急速に多種多様化しています。従来の手法に安住すること無く、新たなツールを効率良く導入し、活きた情報を医療の現場に速やかに提供する・・・これこそが医師の組織の存在意義を高めるもの、と思います。

参考:
1)医ながらにして
2)もうひとつのツール