「医療のIT化」
  荒川医院 安藤潔
日本臨床内科医会会誌 ITコーナー 原稿

 昨年度、レセプトオンライン請求義務化のニュースが医療の現場を直撃しました(1)。これは大変だ、と全国で盛んに講習会が開催され、臨床医を対象としたアンケート調査によれば、義務化されれば廃業せざるを得ない、という声も決して少なくないようです(2)。こうした一方的で拙速な義務化は、国民皆保険制度のもと、保険診療に真面目に取り組んできた臨床医にとっては、まさに生活権の侵害と言わざるを得ません。

 そして今年度、特定健診が保険者に義務付けられました(3)。その謳い文句は”メタボリックシンドロームに着目した予防医療”ですが、その根底にあるものは「医療費適正化」という美名で飾った医療費削減であり、そこには経験豊かな臨床医を納得させるだけのEBMはありません。労働安全衛生法など他法が優先と言いつつ、じつは特定健診の全項目実施が最優先で、夫々の地域で先人が地域住民の為に知恵を絞って構築してきた住民健診の幅広い枠組みは寸断され、新年度が始まっても未だにその帳票さえ定まらぬ、という有様です。

 こうした全国規模の大混乱の中、特定健診のデータについては、健診結果等の情報の取り扱いに関する基準として「本プログラムにおいて定める電子的標準様式により、医療保険者に対して健診結果を安全かつ速やかにCD-R等の電磁的方式により提出すること」とされています(4)。段階的導入とされたレセプトオンライン義務化より更に拙速・高圧的な今年度からの一斉義務化であり、医療の現場はその対応に、まさに混乱の極みにあると言っても過言ではありません。

 ”アナログからデジタルへ”の流れは時代の趨勢ではあります。しかし、医療の現場で扱われる臨床データは患者さんの個人情報そのものであり、それが故にその対応には万全を期す必要があるのであって(5)、これがこの分野でIT化が遅れがちになる重要且つ最大の理由です。こうした事実を踏まえることなく、”唐突に”医療の現場に強要された2つの義務化は、近い将来、全国各地に取り返しの付かない個人情報漏洩を引き起こし、インターネットの性格上、それらは容易に他国へも流出する、と思われます。

 さて、”唐突に”は全国各地、臨床医大半の実感であろうかと思います。だからこそ現場は今、四苦八苦している訳ですが、実はこれらの義務化は既に小泉内閣の時、聖域なき構造改革、e-Japan戦略等の耳障りの良い言葉の裏で、今、与党が「説明不足」で片付けようとしている後期高齢者の問題等と共に、我田引水の経済財政諮問会議を偏重して決めたものであり、日常診療等に追われる臨床医の眼に触れること無く、マスコミも又、知ってか知らずか、キチンと取り上げずにきたものなのです(6)

 インフォームド・コンセントをないがしろにして似非双方向性の姿勢を続ける官僚やマスコミに対して、医療のプロとして”抵抗勢力”足りうるのは私たち臨床医です。しかし、多忙を理由にいつまでも”見ざる聞かざる言わざる”では、”知らぬが仏”と何処かで笑っている者たちの思う壺・・・ここはやはり、私たち臨床医一人ひとりが、本当に必要な医療のIT化にどう取り組み、ITを活用して、見て聞いてどう言うか、に掛かっていると思います。

●リンク先URL:
  1. http://www.h-hokenikai.com/picup/06070503.htm
  2. http://hodanren.doc-net.or.jp/news/tyousa/080313online.pdf
  3. http://www.cminc.ne.jp/pub/memo070124.htm
  4. http://www.niph.go.jp/soshiki/jinzai/koroshoshiryo/kenshin/data/2_6.pdf
  5. http://www.med.or.jp/teireikaiken/20060808_2.pdf
  6. http://www.monju-jp.com/pub/mets070606.htm