マラリア

マラリア対策についての一般的情報は下記のサイトを参照して下さい。

マラリアページ(東京大学医科学研究所感染免疫内科)

海外勤務健康管理センター感染症情報センター


1) forum-MLでの01/04/12の「メフロキン国内認可」を巡る情報

国立感染研、感染症情報センターの木村です。

今月初めに、抗マラリア薬のメフロキンが治療薬及び予防薬として認可されました。
商品はスイス・メファ社の製品メファキンMephaquinです。国内の販売はエスエス製 薬です。どちらかと言えばスイス・ロシュ社のラリアムLariamの方が有名ですが、メ ファキンも東南アジアその他で出回っています。

治療薬としての保険収載まで半年程度はかかるようですので、すぐには出回らないよ うですが、遅ればせながら日本でも予防・治療に使えるようになります。必要な旅行者に予防薬として処方するのも大事であり、必要ない旅行者には処方しないことも大事かと思います。この判断はある程度専門的になるでしょう。国内でもそのような専門家がより多く出てくる必要があります。それには、国際旅行医学会の雑誌J.Travel Med.あるいはその他に数多く出ているメフロキンに関する論文、特に副作用を取り上げた論文を熟読して、その副作用をどの程度と認識するかが重要となります。

国内で認可になったことを、旅行医学の草分けで、メフロキンにも詳しいチューリヒ大学Steffen教授に伝えたところ、以下のようなメッセージが来ました。

「それはいいニュースだ。おおまかに言うと、75%には副作用がなく、25%程度には副作用が見られるが、殆ど軽度のものである。しかし、副作用があり得ることを旅行者に伝える必要がある。でも結局、メフロキンにより多くの旅行者をマラリアによる死亡から救っているのだ。」
以上です。


海外勤務健康管理センターの奥沢です。

うれしいニュースです。木村先生ありがとうございます。
ずうずうしいお願いですが、公式情報源を教えていただけますでしょうか?

なお、国内で予防目的の処方・投薬は認知されていないのが現状です。

  1. 予防処方は1週間以上の海外旅行に限定(医療水準論との関連)。
  2. 費用は全額自己負担(予防目的の健康保険利用は禁止)。
  3. 診察から6ヶ月以内に使用すること(医師法の無診察規定に関連)。

こういった条件を満たせば、予防目的の処方が必ずしも違法にあたらない旨を、私たちから一般医師にアナウンスする必要があるのではないかと思います。


国立感染研感染症情報センター木村です。

メフロキンは今まで国内で認可されていなかったので、「使えません」で済んでいたのが、今度は現実的な対応を迫られることになります。私も身が引き締まる思いです。

  1. メフロキンの予防効果は高い (それでも罹ることがあるのは事実ですが、効果が高いことを無視してはいけない)、
  2. しかし、副作用が余り強いと、勧めるのを躊躇する、
  3. だけど、熱帯熱マラリアで重症化・死亡する例もある、
  4. そこで、メフロキンの副作用が本当にどの程度であるかを知る必要がある、

と言う流れで、私は数年前からメフロキンの特に副作用に関する論文は目に触れる限り検討し、また、実際に欧米のトラベルクリニックで多数処方している専門家にも意見を聞き続けてきました。

今の個人的な結論は、

  1. 副作用がゼロと言うわけにはいかないが、真の副作用はそれほど多くはない、
  2. 先入観から副作用でないのに副作用とされやすい、
  3. 熱帯熱マラリア感染のリスクがある程度あれば、服用を勧める。その際、副作用がありうるが、余程でなければ中止しないよう言っておく、

と言う意見です。

ファンシダールの予防内服での死亡例は多数でましたが、メフロキンも相当使われていて、それによる死亡例はTENを起こしたアフリカ人の子供一人ということになっています。

国内で販売されるようになると、マラリア予防内服に一生懸命になる人がある程度必要となり、その人達が国内での全ての要望の応ずることも無理でしょうから、ガイドライン的なものを作製するのも必要になる、と考えています。一生懸命になる人に関しては、絶えずそのテーマを考え続けることが必要です。国際旅行医学会にはそのような人が多数いて、そのメーリングリストで活発に議論を戦わせています。実際に相当数処方している人達の議論であることが重要です。

また、予防的に薬を飲むと言うことは、通常の医療行為とは異なるので、旅行者の理解も得るように努力する必要があるでしょう。


奥沢です。

> 各種勉強会、MRの話などから、「処方薬」の予防投薬は、一切禁止、というふうに漠然と理解しておりました。

まずは、医事新報 No.3901(Jan 30, 1999), p.113-114をご覧下さい。弁護士さんが書いた記事で,予防処方は違法と断言しているように見えますが、よく読むと予防処方が認められる余地もあると指摘しています。要約すると

  1. 現行法のもとでは、医師が患者に対し、薬剤を予防的に投与することは認められていない。医師法で禁止された無診察治療にあたると思われる。
  2. 国際化によって海外で予想外の事態が次々と発生している。現行法を杓子定規に運用せず、患者の利益を尊重した弾力的な法運用が求められる。

これらの意味を、別の弁護士さんに解説してもらいました。

まずは(1)です。医師法第20条(医師は診察を行うことなく治療を行ってはならない)にある診察の解釈が問題です。治療を抗マラリア薬の処方として、

以上2通りの解釈が考えられます。

保険診療を前提とするなら解釈1が一般的です。しかし、この解釈では予防目的の医療は全て違法となります。予防目的の医療が許されるなら、解釈2が成立する余地があります。以下、弁護士さんから教わった解釈2の作文です。

解釈1より解釈2の方が普遍的です。予防医療を禁止する旨の法律(健康保険がらみを除く)がなければ、法律家は普遍的な解釈を採択するのが通常です。解釈1によれば、予防処方は全面的に違法となります(保険診療なら違法と解釈する以外ありません)。解釈2なら予防処方も可能と読めます。

次に(2)ですが、これは医療水準論を意味すると思われます。こちらは法解釈より、医療側専門家の見解が重要とのことで、私の見解です。

つまり(2)は、適切な医療が期待できる状況(渡航日程がマラリアの潜伏期より短い場合)なら予防処方は正当化されない、と読むのが妥当でしょう。


> 「大衆薬」に限ったことなのでしょうか?それとも処方箋の必要な「処方薬」についても言えることなのでしょうか?

大衆薬は全額自己負担です。これに対し、処方薬は保険を使うのが通常です。ここが混乱の原因です。処方薬だが全額自己負担という扱いを想定します。

保険で empiric therapyを行うと違法にあたると解釈される有名な判決文、ガスエソ菌右足切断事件(京都地裁舞鶴支部昭和26年3月23日判決)はご存知と思います。保険診療で予防目的の処方を行うのは違法です。ただし自費診療に限れば「診断確定前の処方は違法にあたる」とする法令はないはずです。

自費診療を前提に、予防処方が違法にあたるかは以下の判断に帰着します。

こういった法令はないと思いますが、あれば違法という結論になります。


2) 木村先生から安藤@荒川医院が頂いた私信メール(転載許可済)

私は昨年9月までは東京大学医科学研究所附属病院にて、マラリアその他の熱帯病の診療を行ってきました。一般の医療機関でマラリアを扱うことに関しては、何とも難しい問題です。

外部の検査センターに出した場合、どの程度早く結果を出すか解かりません。また、不慣れな検査会社で間違いを起こした事例も知っています。極く僅かしかマラリア原虫がいないような時には、診断が難しいこともあります。

したがって、早めに専門機関に相談するのも手です。私は今でも東大医科研附属病院の非常勤講師をしており、連絡頂ければそこのマラリアに詳しい医師に紹介します。また、私と連絡が取れないときには、直接にその病院に御連絡ください。TEL: 03-5449-5338で、マラリアの診療をしている医師を探してみてください。皆いろいろなことでばたばたしていますが、電話に出た人が探してくれるでしょう。

また、その病院に私が作ってホームページを置いてきてあり、今でも見られます。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/didai/malaria0.html
それでは宜しくお願い申しあげます。


forum-MLからの転載許可を下さった両先生の御署名は下記の通りです。

***************************************
〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1
国立感染症研究所 感染症情報センター
木村 幹男
TEL: 03-5285-1111 (内2043), FAX: 03-5285-1129
E-mail: kimumiki@nih.go.jp
Web page: http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
***************************************

/***********************
海外勤務健康管理センター
研究情報部 奥沢英一
***********************/