「医ながらにして」

荒川医院 安藤潔

離れた者同士の個人的な情報伝達ツールとして、手紙に始まり、電信、電話、FAXと来て、近年、インターネットが登場しました。こうしたツールの発達に伴い、一度に伝えられる情報量は飛躍的に増加し、その質も多様化しました。そして2年間、当医師会広報を担当してみて実感することは、会員の大半の皆さんが安心して簡単に使えるツールはFAXまで、インターネットはちょっと敷居が高そう、ということです。

FAXなら機器の値段も手頃、自分で買ってきて設定するのもさほど難しく無く、説明書をみれば操作も他人に習うほどのことも無い。壊れることも滅多にありません。電話と違って送りたい時に送っておけば、相手の仕事を中断することも無く、手書きの情報も正確に伝えることができ、言った言わない、のトラブルも或る程度、避けることができます。

同様のことは勿論、インターネットに繋いだパソコンを使っても可能ですが、安くはなったとは言え、パソコンはまだ、ちょっと買ってくる、という値段ではありませんし、初めての方が説明書を読んでインターネットに繋げられるか、と問われれば、うう〜ん、と思わざるを得ません。手書き入力や音声入力も可能ですが、まだまだキーボード入力が一般的です。機器自体が壊れることは滅多にありませんが、突然、画面が動かなくなったり、回線が繋がらなくなったり、また、コンピュータ・ウイルスが蔓延する昨今、その対応もキチンとしなければなりません。

それでは、何故、当医師会にもインターネット、なのか。ひとつは医療の現場を取り巻く状況の変化の早さ、もうひとつは(殊に都心の)医療の現場が置かれている状況の厳しさ、であろうかと思います。前者は猫の目のように変わる保険点数制度や、SARSや鳥インフルエンザのような新興感染症を考えれば、直面する私たちの現場には双方向性の情報・意見交換をより迅速・的確に行えるシステムが望まれますし、後者は毎年の医業経営の落ち込みを見れば、そのようなシステム構築も、またその活用も、現場(自院)に”居ながらにして”実行できる簡便なものでなければ、画餅は兎も角、実用に耐えるものにはなりません。そしてこれを地区医師会レベルで具現化しようと思えば、現時点ではパソコン+インターネットを選択せざるを得ない、と実感しています。

そこで、この1年半ほどの試みを御紹介しながら、何故、そう実感したのか、そしてパソコン+インターネットは案外、敷居は高くないぞ、について述べてみます。

”居ながらにして”の有用性を強く実感したのは、 昨年春のSARS騒ぎの時、そして今季のインフルエンザ・ワクチン不足の時でした。まず刻々更新される世界保健機構(WHO)感染症情報センターなどのホームページ(HP)から最新情報が”居ながらにして”見れる・・・該当する通達が従来のFAX網で当医師会に届くのは数日後、という具合でした。また同報メールや専用MLを利用して、関連する複数の部署の医師や行政担当者と診療の合間に協議を進め、その結果は随時、専用HPに集約して情報を速やかに共有し、更に協議を進める、といったように、非常に効率的な連携を図ることができました。これは自院の日常診療をこなしつつ、ボランティアで活動している臨床医にとっては、とても有難いことですし、従来のツールでは実現不可能なことだ、と実感しました。

案外、敷居は高くないぞ、と思うようになったのは、簡便な映像会議システムに出会ってからです。平成14年秋、都内地区医師会有志でORCA広域講習会を企画した際、某企業のテレビ会議システムを借りることを考えたのですが、2時間使うだけで40万円掛かるとのことで断念。そこへパソコンとインターネット、そして簡単なカメラ・マイクセットがあれば格安で映像会議ができる、という情報が舞い込みました。早速、導入をあれこれ検討し、結局、都内6地区医師会および全国24箇所を繋いでの多地点映像会議が実現しました。因みにこの映像会議システムに掛かる費用は現時点で月額数千円というレベルです。その後、これを使って1年間で計11回、全国各地15〜30箇所を繋いで広域講習会を開催、初めのうちは音量の調節や画像の設定に戸惑ったりもしましたが、回数を重ねるうちに扱いにも慣れてきて、最近は毎月一回、テーマを決めて、夜8時から全国各地の有志の先生方と映像委員会を開催しています。

昨年夏からは東京都医師会の医療情報検討委員会でもこのシステムを導入して頂き、平日午後を休診にできない委員も同システム経由で各自のクリニックから委員会に参加しています(図1)。普段、委員会メーリングリスト(ML)で日常的に情報・意見交換をしていますので、委員会では要点のみを協議、30分ほどで委員会が終わると、直ちに午後の診療を再開でき、平日午後の開催でも、さほど負担にはなりません。こうして通常の委員会は on lineで効率的に業務をこなし、ざっくばらんな懇親会は全委員の都合をMLで調整し、診療後に off lineで適時、開催しています。
図1.都医医療情報検討委員会の様子
第三回委員会(於:都医会館) 第三回委員会(於:クリニック)

一方、日本臨床内科医会のIT委員会では、映像会議システムの替わりに無料のインスタントメッセンジャー(*1)をダウンロードして、映像委員会を試みています。上記のシステムに比べ、参加人数が10名近くなると不安定、という欠点がありますが、7〜8名で参加できる簡便なテレビ電話、と考えれば、導入は無料、設定は簡単、資料の共有などインターネットに繋いだパソコンの機能を使いながら、大分や京都など全国各地の委員の先生方と、自宅あるいは自院に”居ながらにして”協議できるのは大きな魅力です。
図2.日臨内IT委員会の様子

実はこのメッセンジャー、文字チャットを各事務局との日常的な業務連絡に愛用しています。電話ほど迷惑を掛けずにいつでも相手を呼び出せますし、前述の如く資料の共有が容易、マイク・イヤホンを差し込めば、其の侭、インターネット電話として使えます。音声も携帯電話よりも良好で、双方が常時接続の為、通話時間を気にする必要もありません。

既に皆さん、お気付きのように、こうした映像会議ではキーボードによる文字入力は従であり、音声による会話が主となります。即ち、パソコン+インターネットを on line meetingのツールとして使っているのです。パソコンは苦手という方であっても、一旦、誰かに設定して貰えば後は必要なキーを電話やFAXのボタンの感覚で押すだけ・・・。最初はちょっと戸惑っても、携帯やFAXを使い慣れるのと同じくらい容易に扱えるようになります。

さて、このようにして”居ながらにして”を実現する簡便なツールですが、都心は全域、光ファイバーさえ導入できる環境にあるというのに、常時接続であれば、例えばメッセンジャーであれば幾ら映像会議をしても、幾ら電話として使っても、携帯電話の定額料金程度、だというのに、パソコンは滅多に起動しない、起動しても使えるようになるまで待っているのが面倒、などと、宝の持ち腐れ、の方が多いのは残念です。パソコンは家電と同じ。朝、起動したら、夜、仕事が終わるまではつけっ放し・・・ウイルス対策ソフトもWindowsも自動的に最新版に更新され、放熱性のみ留意すれば、ノート型パソコンであっても、何年も使えます。

必要となれば”居ながらにして”会員同士の迅速・正確な医療連携、思い立ったら即、役員にメッセージして”居ながらにして”の医師会或いは医会活動、そして困った時には世界に広がる情報の海、インターネットで漕ぎ出せば、幾らでも最新の医療情報を引き出せるこのツール、”医ながらにして”活用しないなんて、なんと勿体無い話なんだろう、と遅々としてIT化が進まぬ組織を見ると心底、思う今日この頃です。

*1:インターネットで同じソフトを今、使っている仲間を調べ、手軽にチャットやファイル転送などを行えるアプリケーションソフト。