ひとりからみんなへ(06/2/13;日臨内ITコーナー)
●アナログからデジタルへ:
 近年、医療のIT化が言われていますが、私が所属地区医師会で担当している広報や医療情報の業務も、IT化により随分、様変わりしました。理事とは言っても別に秘書が居る訳でも無し、日常診療の合間に、或いは診療終了後に業務を行う”ひとりボランティア”です。何かを調べようと思っても、医業経営厳しい昨今、平日昼間の講演会や図書館等に自ら出掛ける時間は、まず取れません。従ってアナログ時代には、医師会活動の様子を取り纏めたり、日本医師会や東京都医師会、或いは厚生労働省等から当医師会館へ送付されて来る通達文書を整理したりして、会報やニュースとして会員へ周知するという、言ってみれば”上意下達”が主なその業務でした。

 デジタル時代を迎えインターネットが普及した今、従来のアナログ情報に加えて、遥かに膨大で雑多なデジタル情報が身近に溢れるようになりました。日本医師会や厚生労働省は勿論、内容豊富なサイトを提供する組織が急増、専門的知識・情報を持つ人々も次々にブログ(簡単に作れる日記ホームページ)を開設する今、検索エンジンでキーワードを入力すれば、クリック一発で数多くのサイトが検索されます。勿論、その内容は玉石混淆ですので、役立ちそうなサイトをざっと斜め読みしてみて、新たなキーワードで再検索するなど、効率良く必要な情報を集める工夫も必要です。いずれにしろ、従来のアナログ的手法ではなし得なかった多岐に渡る情報収集が可能な時代を迎えたと言えます。更に様々なメーリングリストからも、毎日、いろいろな情報が配信されて来ますし、疑問があれば折り返し各地の先達たちに意見・情報を求めることも容易です。

●開かれた組織:
 さて、こうなると入手した情報をいかに評価し、取捨選択するのか、がより重要な作業となります。独断と偏見に陥らないように、自分なりに或る程度纏めて、広報委員会のメーリングリストに発信してみると、思いも付かなかったような意見や新たな資料を戴いたりもでき、時にはバーチャル座談会のようなやり取りになったりもします。そうして自分なりに推敲した情報を医師会メーリングリストへ流すワケですが、文書郵送の頃と比べれば、配信された情報に対するレス(反応)は遥かに簡単にできるメーリングリストでは、和やかな雰囲気にさえあれば、会員からいろいろな御意見や情報が寄せられるようになります。そもそも医師会は会員同士、フラットな関係の組織であって、いかに会員個々の優れた才能を活動に生かして行くか、がより重要になると考えられ、その為には執行部が”裸の王様”にならぬことが肝要、と思います。執行部にオープン・マインドがあれば、インターネットの活用によりスローガンだけではない”開かれた組織”がぐっと身近なものになると実感します。

●草の根から情報発信:
 そんな折、小泉首相の「聖域無き構造改革」の一環として、郵政民営化の次は医療制度改革だ、とばかりに、経済諮問会議などからは医療の現場から見れば首をかしげるような提案が相次ぎ、その尻馬に乗るようなマスコミ報道ばかりが目立つようになりました。一方、既存の情報源からは、納得できて現場に役立つようなものがなかなか得られず、「まず医療費削減ありき」が国是であるが如き流れに漠然と疑問を感じながらも、具体的に反論できないもどかしさを感じました。そこで実際のところはどうなんだろう、と上記の検索機能などを使って、診療の合間にアチコチのサイトを閲覧してみることにしました。

 まず覗いたのは医療の現場から発信を続けている「医療政策を考える会」(1)「医療制度研究会」(2)などのサイトでした。これらにざっと目を通した上で日本医師会や全国保険医団体連合会などのサイトの覗いてみると、結構、なるほど、という情報が目にとまるようになりました。次に検索エンジンを使って、上記で得た様々なキーワードを組み合わせ、有用な情報を提供しているサイトを多数、更に拾い出しました。膨大なデータ、と言えば、さすがに官僚、”情報公開”を謳っているだけあって、厚生労働省、財務省、内閣府など行政のサイトでは多くの調査資料がアップされていました。しかし、その一方、各分野のジャーナリストによるブログなどを読みながら閲覧して行くと、情報公開と言いながら、実は生データを公開せず(どこか目に付き難いところに公開しているのかも知れませんが)、公的立場で情報操作、と勘ぐりたくなるような己に都合の良い解釈だけを掲載しているサイトも少なからず、に疑問を感じました。

 そこで更に検索エンジンを活用し、その解釈が妥当かどうか、他のサイトから情報・意見を検索して検討してみると、a)2003年2月、塩川財務相(当時)が「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」と表現した日本の歪んだ財政を考えても、また、他の先進国と比較してみても、少子高齢化を迎えた今、我が国の国民医療費は決して削減すべきものではないこと、b)耳障りの良い小泉内閣の「官から民へ」というスローガンの裏に、したたかな天下り先の新たな確保や、保険業界などの”医は算術”がほくそえんでいること、c)”医療のIT化”の美名のもとに医師の”プロフェッショナル・オートノミー”(3)が脅かされつつあること、d)わが国の貧困率(年収が全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合)は近年、一気に上昇、弱肉強食社会への”構造改革”が断行されつつあること、等々、まさに日本の医療、日本の社会保障は今、岐路に差し掛かっている、と実感しました。

 折りしもクリスマス・シーズンでしたので、夜景の画像を公開しているサイトから殊に美しい画像を背景に拝借、パワーポイントで”日本の医療”、”日本の社会保障”というスライドを作成(4)、当医師会の懇親会などでスライド・ショーとして供覧すると共に、クリスマス・プレゼントと称して、各医療系メーリングリストへも紹介させて戴きました。大きなスクリーン一杯に広がる美しい東京の夜景、それに釣られて日本の医療や社会保障についても新たな情報も得られる、ということで、会員の先生方にもなかなか好評でした。これを受けて新年賀詞交歓会では、区行政のサイトなどから得たデータをもとに”医療からみた中央区”を作成、昼夜間人口比率が極端な都心3区の中で、都心も案外、医療過疎の状況もあり得ること等、会員のみならず来賓の方々にも供覧しました。

 巷ではブログが大流行、今やお相撲さんでも自ら世間へ情報発信する時代を迎え、ブログを活用される先生方も急増しています。現場で見聞きし話し合ったことを、幅広く世の中へ発信し、受信したレス(反応)に虚心坦懐に向かい合う・・・ITの面白さはこういうとところにもあるようです。

参照:
1)医療政策を考える会:
http://www.orth.or.jp/seisaku/indexright.html
2)医療制度研究会:
http://www008.upp.so-net.ne.jp/isei/top2.html
3)プロフェッショナル・オートノミー:
http://www.med.or.jp/wma/madrid.html
4)日本の医療と社会保障:
http://www.cminc.ne.jp/hospital/iryoseido05.htm#001