CMINC版  SARS情報
  1. SARSについて:
    1. 一般向け情報医療者向け情報
    2. 感染経路と予防法SARSについてSARSロゴ
  2. インフルエンザにもご注意:
    1. 感染症情報センター日臨内
  • 随時、更新しますので、「表示」⇒「最新の情報に更新」を押してご覧下さい。
  • 何かお気付きのことがありましたら、お手数ですが安藤@荒川医院(東京都中央区医師会)まで是非、ご指摘下さい。(^-^)ゞ
1.SARS(重症急性呼吸器症候群):一般向け情報
  1. 一般の方々へ 
    • 下記の3点を満たす場合、SARSの感染が疑われます。
      1. 38度以上の急な発熱
      2. 咳、息苦しさなどの呼吸器症状
      3. 発症前10日以内のSARS伝播確認地域への渡航歴
            (これには、渡航歴のある方と接触した方、も含みます)
      
  2. 実地医家から一般の方々へお願い
    • SARSの感染が疑われる場合、受診する前に医療機関に電話連絡をして医師の指示を仰いで下さい。
    • これは外来での皆さんへの感染拡大を防ぐ為に、とても重要です。
        
  3. 日本はまだSARSの伝播は確認されていませんが、知識として・・・、
    1. 一般的なSARS予防策はこちらを御覧下さい。
    2. 都民の皆さんへ(pdf;都衛生局)海外勤務者の為の医療・衛生情報SARS 
    3. Q&A:都健康局感染症情報センター
        
  4. SARSに関するご相談は?
    1. 東京都より:東京都保健所及び各区の保健所で相談を受け付けています。
    2. 労働厚生省より
      • 海外旅行時の健康情報に関する照会は最寄りの検疫所にお願いします。連絡先一覧表は厚生労働省検疫所HPから検索できます。
      • SARSに関する一般的な照会については、感染症の専門家が組織しているNPOである「バイオメディカルサイエンス研究会(バムサ:電話 03-3200-6784)」でも、病気自体や診断検査法について応答(原則的に午前9時から午後5時)できます。
          
○SARSの感染を防ぐために (感染経路についてはこちら
  1. SARSの空気感染は否定されていませんが、強力感染者(super spreader)がいまだ国内に認められない現時点では、主な感染経路は飛沫感染、そして接触感染もあると考えられます。
    1. 飛沫感染対策
      1. 患者さんが咳をするとウイルスを含む飛沫は約1m以内に飛び散り落下します。この飛沫を浴びると目や鼻・口の粘膜から感染しますので、咳をしている患者さんの1m以内に近づく場合には、眼鏡とマスクをします。
    2. 接触感染対策
      1. ウイルスに触れた手を目や鼻や口に持っていくことにより感染しますので、手洗いウガイの励行が重要です。
      2. 患者さんの飛沫などが付着した環境は手袋をつけてマイペットで清拭します(次亜塩素酸0.1%(50倍希釈)で清拭すれば完璧です)。SARSに関する消毒
          
  2. 従って、日頃から目・鼻・口に手をやらず、手をやる前(例えば食事の前など)には手を洗う、外出から戻ったら手を洗い、ウガイをする、という習慣をつけることが大切です。
      
  3. もし、国内でのSARSの流行が報じられたら、感染者の飛沫を浴びる可能性のある密閉空間(満員電車やエレベーターなど)を避け、やむを得ず利用する際には眼鏡とマスクを付ける、ということだと考えられます。
  • 市川高夫先生@新潟からのアドバイス
    • マナーとして!!!
      1. 咳をしている人はマスクをつけましょう。
      2. 人前や公共交通機関内で咳、くしゃみをするときはハンカチやティッシュで口を必ず覆いましょう(ティッシュ、ハンカチをできるだけ持つようにしましょう)。
      3. 路上などに痰や唾を吐き棄てないようにしましょう。
    • 自宅のトイレを使用する時以上に、公共のトイレ等を使用した場合は必ず石けんで手を洗いましょう。(飲食店や公共のトイレ等では石けんと流水等で手を洗えるようにしておきたいものです。)

2.医療者向け情報
  1. 必見:SARS緊急情報感染症情報センター
     
  2. その他の情報源:
    1. 世界保健機構(WHO)HPのSARS関連情報
    2. 米疾病予防センターSARS情報
    3. 世界のSARS情報
    1. SARS関連情報(厚生労働省)
    2. 日本医師会SARS情報
    3. 地区医師会有志の為のSARSのページ
    4. SARSについて(都健康局)都の対応
    5. 中堅企業版SARS対応マニュアル
    6. マスコミ情報: 興味深い情報・御意見
      
  3. 臨床症状、シンガポールのSARS現場から:
    1. SARS in Singapore:Clinical Features of Index Patient and Initial Contactsより:
      • SARSの主な臨床的特徴は特異的でない。乾性咳嗽はよくみられるが、他の上気道感染症状は通常ない。胸部理学所見は乏しく、胸部レントゲンは1週目は正常のことがある。臨床検査はリンパ球減少、軽度血小板減少、肝酵素上昇が見られることが多い。ゆえに、早期では、SARSは他のウィルス感染と鑑別困難で、診断の遅れがepidemicなひろがりをもたらす。臨床家は疑いの観点を常に持ち、この感染症の疫学的変化に注意を払うべきである。早期診断は伝播の減少させることができる。
    2. 保健相Mr.Lim Hng Kiangからの発表(一部抜粋):
      • ほとんどの患者は、突然の発熱(筋肉痛を伴う場合とそうでない場合がある)の典型的な症状を発症します。中には、その他に、悪寒・震え・咳・頭痛を発症する人もいます。3日から7日後、患者は、息切れの症状が出始め、レントゲンでは肺に変化が見られます(肺炎)。大体80-90%の患者は、徐々に回復に向かいます。しかしながら、約7日後10-15%の患者は、肺炎が進行し患者は、呼吸を補助するための装置が必要になります。約6%の患者が集中治療の甲斐無く亡くなってしまいます。亡くなってしまう方々のほとんどは、40歳以上の年齢層が上の方々です。しかし、40歳以下の死亡例も3件あります。
      • WHOと米CDCは、主要な感染は、感染者が咳をしたり鼻をかんだときの小滴が空気上に放出され、近くにいた人がそれらを吸い込んでしまう経路と考えています。ほとんどの感染例が、ヘルスケアワーカーや友人・家族の間で発生していることから、シンガポールもこの考えを支持しています。シンガポールでの感染患者は、少人数の人にSARSをうつしています。しかしながら、数人ではありますが、感染性が高い患者がいて、多くの人々にうつす患者がいます(super-spreaders)。これは、病気の発見が早い時点でできず、SARSと診断されるころまでには、多くの人々と密接な接触があったからだと思われます。

  1. SARSの感染性について:こちらから下記とのことです。
    1. 有症者だけに感染性があり、疾病を伝播することができる。
    2. 感染伝播には密接な接触が必要である。
      • 密接な接触とは、SARSの「疑い例」または「可能性例」の看病をしたり、同居したり、呼吸器系分泌物あるいはその他の体液に直接接触した者を意味する。
          
  2. 外来での感染防止対策について:他の外来患者との接触を極力避けることが大切
    • 診療順の繰り上げ等により、患者の待合室での待ち時間を可能な限り短縮させる。
    • 患者は、一般の外来患者とは別の部屋で待機させる。
    • 患者に、マスク(外科用マスク)を着用させる。
    • 医療従事者は、マスク(原則としてN95マスク)・手袋を着用し、感染を防御する。
        
  3. 市川高夫先生@新潟からのアドバイス
    • 空気感染があり得るかも知れないが、その可能性と対策の重要度からすれば飛沫感染対策と接触感染対策が重要で、これらを考慮すれば相当、防げる筈。
    • 飛沫感染対策
      1. 患者さんから飛沫が出るのを防ぐ為に、患者さんにマスクをつけて貰う。
      2. 自分が1m以内に近づく時は自分がマスク、ゴーグルを付ける。(診療所、病院ではプラスチックエプロンも)
    • 接触感染対策
      1. 患者さんの飛沫が付着した環境は手袋をつけてマイペットで清拭する。次亜塩素酸0.1%(50倍希釈)で清拭すれば完璧。 (SARSに関する消毒
      2. SARSは患者便中にも確認されており、診察後にはキチンと手洗い。また、口や鼻に手をやったり、手で物を食べる前には必ず手を洗う。

  1. 東京都の対応

  1. 関連サイト
  2. 興味深い情報・御意見

○感染経路と予防法 (牧瀬洋一先生@鹿児島&安藤@荒川医院)
  • 病原体の主な感染経路には下記の3つがあり、これを念頭に置き、夫々の病原体の特徴に応じた対策を講じる必要があります。SARSでは下記の2及び3が強く疑われていますが、1も否定されていません。しかし、手洗いの励行が第一であることは強調しておきたいと思います。
      
    1. 空気感染飛沫核感染
      • 空気感染とは結核,麻疹,水痘、アスペルギルス,レジオネラ,クリプトコッカスで見られるもので、微生物を含む直径5ミクロン以下の微小飛沫核が長時間空中を浮遊し、空気の流れによって広範囲に伝播される感染様式をいいます。
      • 感染力が強く二次感染を引き起こす前3者では、下記が必要とされています。
        1. 空調設備のある個室に隔離する、
        2. 医療者はN95微粒子用マスク(0.1 ミクロン以上の微粒子の濾過阻止効率は99% )を着用する、
    2. 飛沫感染
      • 飛沫感染とはインフルエンザ,風疹,マイコプラズマ,百日咳菌などで見られるもので、咳,くしゃみ,会話などで直径5ミクロン以上の飛沫粒子が飛散し、約1m の距離内で濃厚に感染を受ける可能性があるとされています。患者さんと一定の距離を取ることやマスク装着による飛沫予防策がポイントとなります。
      • 因みに飛沫阻止率はサージカルマスクではほぼ100%、ガーゼマスクなどでは70% 前後と言われています。
    3. 接触感染など
      • 普通感冒(いわゆる”かぜ”)や感染性胃腸炎のウイルスやO-157,赤痢、A型肝炎ウイルス、エイズ、マラリアなどで見られるもので、感染源に直接的或いは間接的に触れたり(接触感染)、病原体が口から浸入したり(経口感染)、病原体を持つ生物に刺されたり(経皮感染)して感染が成立します。手洗いや洗浄の励行は勿論、マスク、ガウン、コンドームの使用や媒介生物の駆除など、様々な接触伝播経路における予防策がポイントとなります。
          
  • 飛沫(核)”を理解する為に、お馴染みの疾患について考察してみます。
      
    1. 近年、再び注目を集めつつある結核ですが、肺結核患者が咳・くしゃみをすると、結核菌を含む多くの飛沫(しぶき)が飛ぴ散ります。この飛沫を吸い込むと咽頭付近の粘膜に付着しますが、ウイルスのように喉の粘膜を通して感染することは無く、また、少量の菌を飲み込んでも通常は消化されてしまいます。また、飛沫の大半は直ぐに落下して感染力を失ないますが、一部は菌周囲の液が蒸散して、殆ど菌体のみでなる5ミクロン程度の軽い飛沫核となり同室内を浮遊します。これを吸い込むと肺末梢まで到違し、肺胞マクロファージに取り込まれて(結核菌はこの細胞内で生存できる)感染が成立します。これを空気感染と呼びます。従って飛沫核となった菌以外は通常感染力はなく、尿(腎結核)や便(腸結核)あるいはカリエス病巣の口や胸水などは、菌が陽性でも、むりやり大量を口に入れたりしなければ感染源となることはありません。
    2. 通常、インフルエンザ飛沫感染であると言われています。しかし、感染力は強くてエアロゾルや直接接触で感染し、ウィルス粒子を3個吸い込むと感染が成立するとも言われています。子供が感染しやすく、また感染を広げやすいのです。家族の中にこのウイルスが入り込むと、ウィルス学的に或いは血清学的にみて20-60%で感染し、うち半分以上でインフルエンザを発症します。因みにマスクは大正11年にスペインかぜが大流行した際、効果的予防策として勧められ、一般に広まったのですが、飛沫をさえぎり加温加湿により喉の粘膜の抵抗性を保つ効果はあるものの、インフルエンザは空気感染も起こし得るので通常のマスクで万全とはいかぬようです。殊に閉鎖空間、特に換気が悪い状態、飛行機内のように再循環したりする場合は、感染拡大に重大な影響を及ぼします。例えば3時間のフライトをした54名乗りの飛行機で、一人、インフルエンザの方が居た為に3日後には同乗者の72%がインフルエンザを発症した事例が報告されています。

SARSについて (かかりつけ医通信第53号より抜粋)

1.SARSとインターネット:

 SARSの登場で一躍、脚光を浴びたコロナウィルスですが、もともと哺乳動物や鳥類では様々な病気を起こすが、ヒトでは感冒を生じるだけのウィルスとして知られていました(6)
 ヒトに重症肺炎を引き起こすSARSをハノイで最初に認識したWHOのイタリア人医師、Carlo Urbaniの死がコロナウィルスの新種、SARSウィルスの発見に繋がりました。即ち3月12日、WHOはUrbani医師の報告を受けて全世界に新型肺炎に関する最初の警告を発し、3月17日には9ヵ国13カ所の研究施設からなるネットワークを組織、3月29日にSARSで倒れたUrbani医師の肺からのサンプルを米国CDCがサンフランシスコのカリフォルニア大学のJoeDeRisiに送り、4月14日には新種のコロナウィルスのゲノム(全遺伝情報)を解読、直ちに同じウィルスが少なくとも違う8箇所の患者で確認され、4月16日には Erasmus大学(ロッテルダム)の Albert Osterhausらのチームの培養されたこのウィルスにより動物の感染が証明され、SARSウィルスと命名されました。(78)
 特定の病原因子が疾患を生じることを証明するにはコッホの原則(9)が今でも重要で、AIDSの原因としてHIVウィルスが判明するまで2年ほど掛かっていたことを考えると、1ヶ月ほどで原因ウィルスが判明したことは驚くべきことです。これはWHOがネットワークを完成させていたことに加え、研究者同士がインターネットを活用して迅速に実験結果を交換し合い、それらを元に次の実験を行った、即ち、地球規模のバーチャル研究所が有効に機能した訳です(10)。かってエイズ・ウィルス第一発見者の栄誉を巡って、米国立癌研究所のロバート・ギャロ博士か、フランス国立パスツール研究所のモンタニエ博士が激しい論争を繰り広げたことを思うと、まさにインターネットは世界を繋ぐ、という思いがします。

2.SARSとエマージング感染症:

 ここでは山内東大名誉教授による非常に興味深い人獣共通感染症(Zoonoses)講義(11)から、かかりつけ医通信でポイントを要約して皆さんに御紹介します。
 人類が感染症を制圧しうると錯覚し始めた1980年台後半、エイズに引き続き登場したエボラ出血熱の衝撃は強烈で、ベストセラー小説ホットゾーンや映画アウトブレ イクを御存知の方も多いかと思います。この頃からこれまで全く知られていなかった新しい危険なウィルスが野生動物の輸入で先進国に持ち込まれる危険性が改めて認識されるようになり、1993年9月、WHOなどの呼び掛けでInternational Program for Monitoring Emerging Infectious Diseases(ProMed)が開催され、emerging diseases(新興感染症)の名前が知られるようになりました。このProMedで発展途上国でも利用可能なインターネットが国際ネットワークの主要ツールとして導入され、今回のSARSでもその威力を発揮した、と言えます。

 さて、このエマージング感染症ですが、過去40年間に40以上発生しており、1967年にはサルの輸入によりドイツで発生したマールブルグ病が、1993年には米国の異常気象でネズミが大繁殖した為に発生したハンタウィルス肺症候群が、1995年にはアフリカの熱帯雨林に踏み込んで発生したエボラ出血熱には、1998年には養豚が盛んになったマレーシアでコウモリからブタに感染してニパウィルス病が発生しました。又、1997年には香港で家畜である鶏やアヒルからトリインフルエンザウィルスがヒトに致死的感染を起こし、ニワトリやアヒル百数十万羽が殺処分されたことや、1996年に英国に端を発した狂牛病パニックが2001年、日本にも波及しマスコミを騒がせたのは記憶に新しいところです。

 ここで注目されることは、従来のエマージング感染症は濃厚な接触無しにヒトの間で拡がることは殆ど無かったのに対し、SARSは患者の咳やくしゃみによる飛沫感染で、ヒトの間に拡がっていることです。高度なグローバリゼーションが進む今、ヒトの間で容易に移る新しいタイプのエマージング感染症が誕生したとも言えるのです。

3.SARSの感染経路:

 SARSは世界各地で同時多発性に発生したのではなく、空路で世界各地へ移動した感染者から各地域内で感染が拡がったのが特徴で、当初、香港のホテルの同じフロアの複数の宿泊客に感染が広がり、九龍地区のマンション「アモイガーデン」では集団感染が発生したことから空気感染の可能性も懸念され(いまだ否定はされていませんが)、航空業界は大打撃を受けました。

 しかし現在、SARSウィルスの安定性がこのウィルスの迅速な伝播拡大と関係がある、と注目されています。即ち、WHO研究ネットワークによれば(12)、SARSウィルスはかなり堅牢なウィルスで、糞便(尿)中で1〜2日は安定しており(通常の便内では6時間程度)、便のpHが高くなる下痢患者では4日ほど安定して存在するとのことです。常温の体外でもウィルス量は2日後に9割が残存し、活動期の患者さんから分泌物が付着すれば、2日後でも感染性があることになります。中国では病院内での非侵襲的人工呼吸器(NPPV)やネブライザーの使い回しが最初の病院で発覚したとの報告もあり(13)、この認識の低さが北京のSARS outbreakの原因のひとつだとも言われています。

 このように通常知られているコロナウィルスよりずっと安定して体外で存在できるSARSウィルスですが、幸い、通常のコロナウィルスと同様の消毒薬で効果が期待できるとされており、手洗いなどを徹底することが個人でできる重要な予防法と言えます。

 ここで特記しておきたいのは、SARSを初めて報告した Urbani医師がベトナムで取った迅速・的確な行動です。診断するや否や患者の行動と接触者を調べ上げ、患者の病院隔離及び治療する医療従事者に対する防護を適切に行い、疑い例も徹底的に洗い出し隔離を行ったのです。そしてタイムリーで正確な情報提供が関係者や政府の間で行われたことが、ベトナムがSARS制圧に成功した要因とされており、最大の貢献者はUrbani医師と思われております(14)

4.SARSと子供:

 子供は感染しにくく、例え感染しても重症化しないことが指摘され(15)、その理由のひとつとして、様々なウィルス感染に暴露される子供では、生じた抗体がSARSに対しても交叉性に機能している可能性が挙げられています。また、WHOのKlaus Stohrは「1週目は上気道感染で症状で、2週間目に免疫の過応答が生じ、20%で重症化を生じる」との新しい見解を述べており、小児ではいまだ免疫機構が未発達である為に重症化を免れている可能性も挙げられています
(16)
 一方、症例検討だけで真に抗ウィルス薬が効いているかどうか不明な現在、この K.Stohrの見解は感染2週目に予防的な治療法がとられるべきなのか否かなど、今後の治療法にも影響を及ぼすと予想されます。

5.SARSとウィルス変異:

 現在、世界各地の研究施設で10種類以上のSARSウィルスのゲノムが解読されていますが、夫々のウィルスは塩基配列が少しずつ異なっており、これはSARSがRNAに遺伝情報を持つウィルスである為、自己複製の度に転写ミスを起こす、即ち、複製の度に変異するからだとされています。因みにエマージング感染症を引き起こすウィルスの大半がこのタイプに属するとされています(11)

 SARS流行地からは当初より格段に強い感染力を持つ患者が報告され、super infector或いは super spreaderと呼ばれています(17)。また、SARSの診断基準を満たさないがSARSウィルスに感染している silent carrierの存在も確認されています(18)。この辺りは殊に予防の観点から非常に重要なポイントであろうと思われますが、SARSウイルスの変異のし易さに加えて、その発症や重症化にはより一層の免疫応答の関与が示唆されるなど、いまだ明確な説明は得られていません。これらの解明には現行の臨床症状による診断から、インフルエンザ同様にウィルスを増幅して検出するPCR法や(19)、更には医療の現場の私たちでも簡単に出来るような抗体検査の早期開発が望まれます。また、変異し易いウィルスでは当然、画一的な治療が全ての症例に奏効するとは考え難く、研究者たちも診断、ワクチンの有効性について問題であると認識しているようです(20)

6.SARSとグローバル化:

 “サイエンス”という医学雑誌に、“SARSの経験の教訓として、感染症、特に呼吸器感染症に対して、ウィルスの拡がりをブロックすることが第一であり、それは一国だけでできるものではなく、もし流行させてしまえば大国でさえ窮地に陥るインパクトを持っている”と述べられています(21)。SARSはWHOの報告でも「潜伏期を10日と考えるのがベストとしながら、典型的でない症状や所見のケースもありえ、今後ウィルスを直接証明する検査を進めることで、違った管理法も今後、考えられる(4)」と書かれています。日本で最初のSARS発病者が出た場合、いかなる対応がなされるのか。日本が感染のコントロールに失敗した時は、国家的に多大なる損失を蒙るであろうことは、隣国をみれば明らかであり、エイズや狂牛病の轍を踏むことなく、迅速・的確な対応が切望されます。
●参考:SARS肺炎での臨床症状とウイルス量の推移(Lancet:10 May 2003より意訳)
  • 方法:リバビリンとステロイド治療を行った75人のSARS症例の病状及びウイルス量などの推移を3週間観察した。尚、定量的逆転写酵素PCRでウイルス量を測定した。
  • 結果:発熱や肺炎は一旦、改善するが、平均8.9日後に64人(85%)で発熱を、平均7.5日後に55人(73%)で下痢を、平均7.4日後に60人(80%)で胸部XP所見増悪を、平均8.6日後に34人(45%)で呼吸器症状増悪を認めた。34人(45%)のXP所見では初期陰影の改善と共に対側に新たな陰影が出現した。3週目には9人(12%)が自然気縦隔を、15人(20%)がARDSを併発した。ARDSを併発した4名を含む14名で、鼻喉頭吸引物のウイルス量は10日後にピークとなり、15日後には入院時より低下した。SARSウィルスは14日目に65人(97%)の患者の便中にも認められた。年齢や lamivudineによる慢性B型肝炎感染治療が有意なARDSのリスク要因(p=0.001)である。seroconversionには平均20日を要した。
  • 考察:一環した臨床症状の進行、胸部XP上での陰影のシフト、ウィルス量の逆V字型変化から、2週目の病態増悪はウィルス複製を制止できぬからではなく、恐らく免疫病理学的障害によると思われる。
●参考:SARSの臨床症状
  • 香港大学の微生物研究学者チームが、2月下旬〜3月下旬にSARSに感染した患者50人の臨床分析結果を発表した。これによると、患者の症状は、発熱(100%)、悪寒(74%)、乾いた咳(62%)、筋肉痛と倦怠感(約50%)、鼻水(24%)、のどの痛み(20%)、下痢(10%)など。
  • 「重症急性呼吸器症候群(SARS)」は、38度以上の発熱で発病します。悪寒や筋肉のこわばり、また、頭痛、気分不快、筋肉痛を伴うことがあります。発熱時に軽い呼吸器症状が見られる例もあります。発疹や神経学的所見、胃腸症状は通常見られません。しかし、発熱とともに下痢が見られた例もあります。
    SARSに見られる早期の症状をまとめると、下のとおりです。
    ----------------------------------------------------------
    発熱(100%)、気分不快(100%)、悪寒(97%)、頭痛(84%)、筋肉痛(81%)、めまい(61%)、筋肉のこわばり(55%)、咳(39%)、喉の痛み(23%)、鼻水(23%)
    -----------------------------------------------------------
    発熱による発病から3-7日後、下気道の呼吸器症状が始まります。痰が少ない、乾いた咳、息切れや呼吸困難です。低酸素血症となる場合もあります。患者の10-20%では、呼吸器症状は重症で、人工呼吸器による治療が必要となります。胸部X線検査では肺炎の所見が認められることがあります。しかし、一方で呼吸器症状がまったく見られず、軽い発熱のみで全快となる患者もいます。SARS患者における致死率は、5.6%となっています。

SARSロゴ:英語版を追加してクリニックの玄関に表示するポスターを作製できます。